かわいそうなチョ・ソンミン

チョ・ソンミンという名前を覚えている人はいるだろうか? 漢字で書くと趙成●(王へんに民)。1990年代後半に読売ジャイアンツでちょこっとだけ活躍した投手だ。
鳴り物入りで入団した彼だったが、ジャイアンツで活躍できたのは2年目(1998年)だけだった。リーグ前半戦だけで7勝。オールスターにも出場したが、その後に肘の故障。以来、手術とリハビリの日々だった。同じ頃に中日優勝の立役者となったソン・ドンヨル宣銅烈)とは対照的だった。かわいそうなチョ・ソンミン

ところが2年後、彼は再び韓国マスコミの寵児となった。韓国のトップスター、チェ・ジンシルと結婚したのだ。テレビでは長身のチョ・ソンミンが華奢なチェ・ジンシルを軽々と抱き上げる姿が連日のように放映されていた。「逆玉だ」と私は思ったが、韓国の女性たちはなぜかチェ・ジンシルを「ヨウ」とののしった。

幸せなチョ・ソンミン。でも、成績はふるわなかった。契約を1年残してジャイアンツを退団、韓国に帰国してシュークリームのチェーン店を始めたが、これも失敗。さらに、2004年には妻への暴力で逮捕。
「とんでもない野郎だ」とチョ・ソンミンに対する国民的非難が巻き起こった。
やがて二人は離婚。

二人の子供を引き取ったチェ・ジンシルは、女優として華々しいカムバックを果たす。一方のチョ・ソンミンも再起を目指して韓国のプロ野球に入団したが、通算3勝しかできずに3年後に引退。なさけないチョ・ソンミン。もうみんな彼のことなんか忘れかけていた。

ところが今年10月、元妻であるチェ・ジンシルが自殺した。
自殺の原因はインターネット上の「噂」への「抗議」。トップ・スターの自殺は韓国社会に大きな衝撃だった。「あんな素敵な女優が、たかがネットの噂ぐらいで…」とみんなが彼女を失ったことを悲しんだ。数日間は社会全体がその話しでもちきりとなり、出棺から葬儀などの様子は繰り返しテレビで放送された。
そこにチョ・ソンミンが映っていた。

親族や親しい友人だけの場所に、彼は一人頭をたれていた。彼もつらかったとおもう。別れたとはいえ元の妻。私は彼に同情したのだが、韓国人の半分は怒った。「なんであいつが!」彼があんなところにしゃしゃり出てくるのはおかしいと。

そもそもチェ・ジンシルは彼との離婚後に、うつ病の症状を訴えるようになったという。そういう意味では、彼は「自殺の遠因」といえないこともない。でも、二人の間には子ものいるのだし、この時点で駆けつけるのは当然だろう。ところがチョ・ソンミンは、その後さらに窮地に追い込まれる。
「すべてが財産目当て」と言われたのだ。

離婚後、子供の親権は母親にあった。それが母親の死亡によって父親に移る。そこで、人々の関心はチェ・ジンシルの残した莫大な財産である。これは当然二人の子供に相続されるのだが、未成年者のうちは親権者が管理する。つまりチョ・ソンミンが好き勝手できるというのだ。

「そんなつもりは一切ない。僕が考えているのは子供たちの幸福だけ」と彼は再三、インタビューなどで答えている。ところが、世論は彼に冷たい。ネット上で結成された「チョ・ソンミンの親権に反対する会」の会員は1万人を突破。会員の多くは女性で、母親を意味する赤いカーネーションをもって街頭での反対集会まで行っている。

思わぬところで、韓国女性の大多数を敵に回してしまった「危機の男チョ・ソンミン」。それから1ヶ月後に彼は親権放棄の記者会見。一方、これをきっかけに、法曹界では親権についての法律改定の動きも出ている。片親死亡でも、自動的に親権が移らない法。

さて、あれから数ヶ月。世間はまたチョ・ソンミンを忘れてしまっている。