チョ・ソンミンのこと

3日前、4年前に書いたブログが突如ツイッターで話題になり、「え、どうして?」と思っていたら、ブログへのコメントで彼が亡くなったことを知った。
http://d.hatena.ne.jp/kangazi20/20090130/1233264658#c
 チョ・ソンミン、なんということ…。
 ファンだったわけじゃないけれど、あまりにも彼が気の毒で同情していた。ただのスポーツ選手、子供の頃から野球しか知らなかった少年(韓国の場合、スポーツ選手は英才教育で、他の世界から隔離される。パク・セリしかり、キム・ヨナしかり)。
 そんな彼が卒業とともにジャイアンツと8年契約、いきなりの華やかな世界、しかも外国暮らし。
 入団翌年、シーズン前半で7勝をあげながら、故障でその後は鳴かず飛ばずになってしまった原因を、日本シリーズでの無理な続投に求める向きもあるようだが、私はよくわからない。ただ、いろんな意味で、かなり無防備だったのではないかと思う。
 また、彼が韓国の球界ではめったにない「イケメン」だったこともマイナス要因だったのかもしれない。ソン・ドンヨルや後のチャン・スンヨブ、あるいはサッカーのパク・チソンにしろ、日本で活躍した韓国選手の多くは「実力勝負」、スキャンダルにまみれることはなかった。
 日韓の野球仲間やファンが惜しむように、彼は「10年に一度の逸材」だった。そのことが韓国人に忘れ去られ、今回の件でもほとんどのニュースが「チェ・ジンシルの元夫、チョ・スンミンが…」と報じ、インターネット上には「チョ・ソンミンとは誰?」という記事まで掲載されていた。
 「もっと一緒に野球をやりたかった」。
 野球仲間が悲しむ一方で、芸能界やマスコミ関係者は語る言葉をもたない。あたりまえだ。あれだけ攻撃しておいて、いまさら何が言えるというのか。
 彼がどれだけ忘れられた存在だったかは、私のブログごとき、しかも4年前のものがヤフーニュースのリンクに貼られたのを見てもわかる。チョ・ソンミンは韓国でも日本でも忘れられた人になっていた。

「韓国社会の冷たさが彼を追い詰めた」
「残された子供たちはどうなるのか」
 ワイドショーの司会者やコメンテーターは、まるで他人事のように語る。どこの国も同じだ。テレビで発言する人間(テレビに選ばれる人間)は、とっさの空気を読んで大衆に迎合する。
 4年前、彼をあんなに攻撃した人たちはどこに行ったのだ? みんな定年退職したり、リストラにあったり、発言できないような大病でふせっているのか? 
 
 「子供になかなか会えない」と日本人の友人にこぼしていたという。
 会わせなかった人がいるからだ。
 4年前の私のブログに、ひとつだけ当時のコメントが残っていた。彼に同情する私への反論だった。

浮気に暴力!ジンシルが可哀想です
離婚後も子供に1度も会いにこない 長女の出産の時は病院にもこなかった
顔見るだけでムカムカしてきます
どうか子供達が大きくなって自分達で生活できるようになるまで干渉しないで欲しいです
ジンシルのお母様や弟さん、ジンシルの友達が子供を守りますよ
ジンシルの暴力を振るわれて腫れた顔はいまでも胸が痛みます
チョ・ソンミン..あなたにファミとジュニの父親の資格はありません
財産問題がクローズアップされてる頃は子供達が可哀想でした

 これを読むと、当時の韓国社会の空気を思い出す。
 もちろん私だって暴力には反対だ。ましては腕力のあるスポーツ選手が女性を殴るなんて言語道断だ。犯罪の中でもひどい犯罪である。それでも、やはり世間は彼の意見を聞くべきだった。チョ・ソンミンが何故その「黄金の腕」をふりあげてしまったか、

 それを強く思ったのは、チェ・ジンシルのお葬式映像に映っていた彼を見たときだ。みんなから離れたところで、一人ぼっちで出棺の様子を見ている姿。
人間とはこんなにも悲しむものなのか。

 確かにチェ・ジンシルは被害者だった。か弱い女性だった。でも、社会的には「弱者」ではなかった。夫をはるかにしのぐ財力もあったし、一瞬にしてマスコミを味方にする社会的パワーもあった。

「せめて子供を引き取りたい。」
 あたりまえの申し出を、世間は「財産目当て」と決め付けた。自分と同じレベルで他人を見る人間が多すぎる。哀れな人々。そんなかわいそうな人々によって、チョ・ソンミンはずたずたに傷つけられた。

「本当に日本をベースに活動していけば、こんなことにならなかったのに・・・。韓国は人生のやり直しがきかない国、だからみな海外を目指すのかな・・・。」

 コラムを読んだ方から、こんなメッセージもいただいた。「韓国は人生のやり直しがきかない国。だからみな海外を目指す」ーーまさに、その通りだ。海外で成功して凱旋する。意地悪な言い方だが、もし彼がその後メジャーリーグで活躍でもしたら、人々は手のひらを返したように「英雄」を歓迎したかもしれない。でも、彼は池に落ちた犬だった。

 この数日間の報道でわかったことだが、彼は昨年は子供たちの運動会にも弁当をもって出かけていた。つい、先日、クリスマスや年末には「暖かくしろよ」と電話もしていた。いいお父さんだったんじゃないだろうか。だから子供たちは父親の棺に、家族として寄り添った。
 遅すぎた。本当に悲しいし、悔しい。
 
 今朝の中央日報に「スターの自殺、生命軽視で大衆への犯罪=韓国」という社説が掲載されていた。
 まだ、非難されなければいけないのか。かわいそうなチョ・ソンミン