スポーツみたいな韓国料理

年に3度ほど日本に帰るのだけど、1週間ぐらいいるとすっかり「へたれ」になる。体の中から熱や力が抜けていく。これは食べ物のせいだと最近、感じている。

日本の料理は味がまろやかだ。平穏な気持ちで普通に食べれば、それで十分美味しい。
韓国料理はそんなわけにはいかない。汗をかいて、はひはひ言いながら、一生懸命食べなければいけない。辛さが闘争心をあおる。負けてはいけない。何に? 辛さにだ。したがって勝利の後は解放感がある。スポーツみだいだ。

で、最近はさらにそのスポーツのレベルが進化している。民族学韓民族を研究する学問)の第一人者であるチュ・ヨンハ教授は経済誌のコラムにこんな風に書いていた。

「韓国でこんなに食事が辛くなったのは1980年代の後半からでしょう。キムチもトッポギもそれ以前に比べてべらぼうに辛くなった。ところで、食事の嗜好というのは、個人的な好みよりも、食品業界の戦略が大きく影響する。韓国人は辛いものを食べるという自信感をあおるための広告・マーケティングが徹底して行われた。」


教授がここで言われていることは2点。
・韓国料理がべらぼうに辛くなったのは1980年代の後半から。
・韓国人が辛いものを食べるのは、それが結果として自信感につながる。

私が韓国のまかないつき学生下宿で暮らしていたのは、1990年である。下宿のおばさんは全羅道出身で料理上手。出される食事はどれもこれも感動的においしかった。
「辛くて食べられない」という記憶はない。
キムジャンキムチなどは、そのまろやかな発酵に、チーズを連想したほどだ。日本の実家にも持ち帰ったが、普通の日本人の両親が普通においしく食べていた。

私自身が韓国料理が辛くなったと感じるのはこの10年、つまり2000年以降のことだ。しかも年々辛くなる。
唐辛子とにんにくが中国産になり、それが辛さの原因とも言われた。
でも、今、人々は明らかに辛さを求めている。
チュ教授は以下のように述べる。

「最近、流行している辛さとは、辛く作ればそれだけで勝負できるという感じだ。経済的沈滞や政治的無気力など、どん底の社会的雰囲気が刺激的な味を求めているからだ。」
「本来、南米産である唐辛子が全世界に広がった過程をみると、社会の変化がひどくストレスがひどい地域が、ホワイトカラーよりブルーカラーが唐辛子を積極的に受け入れた」
 さらに、飲食評論家ペク・スングック氏は「辛さはエンドルフィンを分泌するので、人々は無気力になっているときに辛さを求め、その辛さに慣れた人はさらなる辛さを求める」と。つまり中毒性があるということだ。
(以上は、2005年にかかれたエコノミック・レビューのコラム「大韓民国は今、激辛ブーム」からの引用。それから4年たった現在はさらに深刻だ)。

そもそも韓国料理に必須のにんにくは代謝を高め、パワーアップをさせる。そこに辛さのエンドルフィン。
韓国人の激しさは、どう考えてもその食事に理由がある。
ところで、唐辛子の辛さではタイ料理なども負けないが、韓国料理はもう一つの特色がある。それは色だ。韓国料理は赤い。その赤さが、さらに人々の闘争心をあおるのである。