韓国でする「孤独のグルメ」11

今年はかつてない暖冬のまま、気がついたら冬が終わりつつある。スキーは2回ほど行ったけど、それ以外はあんまり冬が楽しめていないような気がする。
冬季オリンピックは、周囲ではあんまり話題にならなかった。4年後は韓国で開催なのだから、もうちょっと前夜祭ムードを演出するのかと思ったのだけど、そんなこともなく過ぎていった。そもそもテレビというマスが機能しなくなったから。家族はテレビ放映のために集合もせず、「国民」も「ともに熱狂する時間」が失った。シンクロしない人が増えた。

日本の方がはるかに盛り上がっていたように感じる。
日本にはスター選手も多いし。
ただ、私の周りにはルサンチマン系の黒息を吐いている人々が多いせいか、キム・ヨナがどうこうという暗い話題が多かった。
いろいろ聞いてくる人に「バカですか?」いう代わりに、韓国のネットで拾ったこんな写真を送ったりしていた。真央ちゃんとヨナちゃん。可愛いですね。

日本人もそうなのだろうけど、韓国人もみんな、忙しいし、疲れている。
日々刻刻変化する国土には、新しい高層マンション、レストラン、ブティック、新型のスマホ、新しいアプリ。欲望の街では、いくらお金と時間があっても足りない。
狂暴なポストモダン、「自分の頭」でしっかり考えないと、大変なことになる。




韓国でする
独りグルメ
  
その11

三清カルククスの
メセンイカルククス


   
 冬になると「こればかり食べている」というものがある。大好物なのだけれど夏はあんまり食べない。ヒントは海。さて何でしょう?
はい、答えは「それ」なんだけど、実はもう一つある。メセンイだ。韓国語だとわかりにくいので日本語に訳すと「カプサアオノリ」という(こちらも相当わかりにくい)。

「そんなの知っているよ」という方は少ないと思うので、簡単に説明するとアオサ科に属する海藻で、見た目はアオノリとも似ているが別種。韓国では南海岸の特産物として知られている。
これが市場にならぶのは、11月末から3月初めまでの3か月間限定で、海水の温度によっては、その収穫時期もずれる。最近は冷凍保存の技術が発達し、一年を通して食べられるようになったというが、でもやっぱり冬が美味しい。冷たい冬の海からあがったものをそのまま食べる醍醐味は、外気の寒さがあってこそ完成する。

 以前は南道料理の専門店に行かないと食べられなかったが、最近は全国区になり手軽に食べられるようになった。鍋やメセンイジョン(チヂミ)なども美味しいのだが、一人グルメ派に食べやすいのはカルククス。なかでも三清カルククス(02-2277-5675)は通年でメニュー入れている数少ないお店の一つだ。

いつもは一人でサクッと食べて来るのだが、ある日、日本から来たお客さんを連れて行った。
「メセンイって知っている?」
「なんですか、それ?」
韓国に留学経験もあり、韓国関係の取材などもしている方だが、やはり知らない。
「カプサアオノリのことです」
 ますますわからないという顔だ。こういう瞬間が私はうれしい。人が知らないことを私は知っている。カスみたいな自尊心が満たされて、ご飯を食べなくてもお腹がいっぱいになる。
 
 さて、出てきたメセンイカルククス。その色を見て、彼はギョッとした。以前にも書いたが韓国料理は赤とか黒とか白とか驚くべき単色料理がある。これは緑。しかも深海を想像させる深い深い緑なのである。
 彼がスマホを取り出して一生懸命撮影している。なんか人の役に立てようだと、自己満足でいい気持ちになる。そして一緒にカルククスをいただく。ああ、美味し〜い。
 メセンイカルククスには隠し味がある。深海のような緑のスープをさぐると、そこから小ぶりのカキが出てくる。これが絶妙な味わいだ。まろやかなメンセンイをすすりながら、ぷりぷりの牡蠣をつるっと食べる。まるで冬の海をまるごと食べているような気分。全身が心地よい磯の香りに満たされると言ったら大げさかもしれないが。
 昼食時は並ぶこともあるし、お一人様のマナーとして午後1時過ぎに行くのがおススメ。そうそう、冒頭に書いた「冬になるとこればかり食べているもの」の答えは「カキ」です。