韓国でする「孤独のグルメ」⑩

韓国でする独りグルメ
  
その10 

川魚のメウンタンと五分付玄米定食 

ソウルに雪が積もり、本格的な冬が到来したころ、ふとミンムルメウンタンが食べたくなった。ミンムルとは淡水のこと。つまり川魚のメウンタンだ、ソウルでメウンタンといえば、刺身の後に出てくる、タイやヒラメのアラのスープがおなじみなのだが、地方に行けば様々なメウンタンがある。ずっと以前、取材で訪れた街で何度か川魚のメウンタンを食べた。それが冬だったせいか、冬になると食べたくなるのだ。

 さっそくネットでミンムルメウンタンを検索してみたが、いずれも観光地の立派な店ばかり。一人でふらっと行けるようなイメージではない。韓国ではこういう野趣あふれる料理ほど、グループで行ってワイワイ食べるイメージが強い。でも現地に行けば、場末の食堂で一人、川魚のメウンタンを食べている人がいるかもしれない。とりあえず京義線で北に向かった。ネット情報では、一山(イルサン)市場には川魚を扱っている店があるようだ。

 
ちょうど市の立つ日だった。駅前で降りると、前方には色とりどりのパラソルの花が咲いている。入り口からほど遠くない場所で、洗面器に川魚を入れて売っている人がいた。タナゴ、ハヨ、ハゼ科のなんか。あれ、これは何だろう?
「斑点のあるやつはノンオですよ。こいつだけ海の魚」 

ノンオとはスズキのことだ。つまりこれはセイゴ(スズキの幼名)なのか。確かにセイゴは河口近くにいるが、でも斑点なんてあったっけ? (この疑問は後で解けた。これはヒラスズキと言って、スズキの中でも珍しい種類らしい。)
 「ところで川魚のメウンタンが食べたいんです。近くにありますか?」
 市場の人なら知っているだろうと思って聞いてみた。
 「ないね。ここにはない。汶山まで行かないと」
 
汶山は一山からさらに20分ほど北に行ったところにある。仕方ないのでまた電車に乗った。汶山でもやはり駅前の市場に行った。もうすでに2時近くになっており、お腹が空いてたまらない。市場の中で海苔を売っている人に、メウンタンの店はないか聞いてみた。
 「それはイムジン江まで行かないと。一人? そんなの無理。そんな人、聞いたことない」
 聞いた瞬間に力が抜けて、空腹で倒れそうになった。思わず、目の前にあった「昔のご飯探し」(031-952-3533)いう店に入り、定食を頼んだ。五分付玄米のご飯とテンジャンチゲがものすごく美味しくて、気絶しそうになった。特にテンジャンチゲの中の豆腐は絶品、この市場の豆腐屋さんの手作りだという。そうか、私はメウンタンではなく、今日はこれを食べにきたのだ。だんだん、そういう気分になってきた。
 ああ、美味しかった。いい昼ご飯だった。ソウルまでは約1時間。それにしても今日は、ずいぶん遠くまで昼ご飯を食べに来てしまった。