韓国でする「孤独のグルメ」⑦

数日前からソウルは一気に秋になった。朝は17度、日中はまだ日差しは強いものの、真っ青な秋空が美しい。いい季節だ。
こうなったら、こうなったらで夏が名残惜しい。
四季のある国で暮らす人間はぜいたくだ。


韓国でする「孤独のグルメ」⑦
晋州会館のコンククス
콩국수

外国で料理を食べると、いろいろ驚くことがある。味や香りもそうだが、韓国では色に圧倒されることが多々ある。たとえばテーブルに並んだものが全て同じ色の場合とか。メインのキムチチゲにつけあわせがムウマレンイ(大根切干)、魚のトウガラシ煮、キムチ数種。
「うわ、真っ赤…」。
普通はホウレンソウの緑色や、卵焼きの黄色などが入るのだが、間に合わない時もあるのだろう。これには辛いもの好きの私でもギョッとなる。

中には「黒」がダメという人もいる。チャジャン麺のことだ。見たこともないような真っ黒なソースにたじろぐそうだ。「黒」は大丈夫だが、私は「白」に驚いた。コンククスである。

「今日は暑いから、とっておきのものをごちそうしてあげる。」
あれは1991年の夏のこと、私は当時、延世大学の韓国語学堂というところで勉強していた。誘ってくれたのは、同じ年の韓国人の友人だった。
目の前に出されたのは真っ白の料理、友人は「わあ〜。美味しそう」と歓声をあげている。

これが美味しそう?? 白一色のうえに、具が全くないのにも驚いた。でも、実際に食べたら「これは!!」と感動するかもしれない。勇気を出して、口に入れてみた。
味がない。なーんの味もない。衝撃だった。世の中には、こんなに味のない料理もあるのだ。

私がかなり嫌そうな顔をしたのだろう、友人が「味が薄いなら塩を入れろ」という。なるほど、テーブルには塩が置いてある。それを入れてみたら、塩の味がした。さらに友人は「キムチと一緒に食べろ」という。キムチを入れてかき混ぜた。白いスープが赤く染まるまでかき混ぜた。友人が露骨に嫌そうな顔をした。今はその意味がわかる。それはまさに邪道な食べ方なのである。

散々な思いをした初コンククス、もう二度と食べることはないと思ったのだが、その翌々年、今度はアメリカ人の友人に誘われた。
「ものすごく美味しいコリアンフードがある」

真っ白い麺を前に、またこれかとがっかりしたが、しぶしぶ口をつけてみて、驚いた。あれ? 何か違う。大豆の味が生きている。麺のシコシコ感もほどよい。さらにキムチがうまい。キムチは淡白な料理(コンククス、カルククス、ソルロンタンなど)の味を完成させるうえで、決定打となる。

コンククスへの誤解をといてくれた店の名前は晋州会館 (02-753-5388)。あれから20年近くたった今も変わらぬ味を提供してくれる。ソウル地下鉄2号線市庁駅の9番出口を出て、路地を左に入る。夏の昼時はサラリーマンが長い行列を作っているのですぐわかる。
一人でも、韓国語ができなくても大丈夫。夏のランチタイムのメニューはコンククスのみだから。席に座ってお金を払えば、何も言わなくても真っ白の料理が出てくる。ひんやりした大豆の味わい。夏はこれに限ると、今は思えるようになった。