韓国でする「孤独のグルメ」⑥五壮洞の咸興式冷麺


前回は平壌式冷麺の話を書いたので、今回は咸興式冷麺の話を少し。
冷麺に平壌式と咸興式があるのは、よく知られた話だ。平壌式=「ムル(水)冷麺」(牛だしやトンチミを使った冷たいスープ麺)、咸興式=「ビビン(混ぜ)冷麺」(甘辛の具材がのったスープなし麺)と、長い間理解もされてきたが、どうやら両者の違いはそこではないらしい。

違いは麺。蕎麦粉に緑豆を加えた黒っぽい麺が平壌式、サツマイモやジャガイモをつかった白っぽい麺が咸興式の特徴だという。よって、咸興式冷麺の店でムル冷麺を食べることも可能であり、実際にはそういう人も少なくない。
ところが「冷麺横町」として知られる五壮洞の場合はちょっと違う。ここでは、ほとんどの人がビビン冷麺、特にその一種であるフェ冷麺を食べている。

フェ冷麺は日本のガイドブックなどで、「刺身冷麺」などと翻訳されていることもあり、マグロやヒラメの刺身がのった冷麺を想像する人がいる。
「それはうまそうですねえ!」
残念ながら、そんなものは韓国にない。

誤解の原因は「フェ」という言葉だ。韓国語の「フェ(膾)」は刺身という意味でも使われるが、本来は膾(なます)である。つまり生魚を酢や調味料に漬けたもの。フェ冷麺のトッピングはエイを酢と唐辛子であえたものだ。色は真っ赤、普通の「刺身」を想像した人には衝撃の一品だ。

さらにフェ冷麺は辛い。ものすごく辛いせいか、韓国の人々は砂糖やマスタードを入れる。砂糖? マスタード? 当初は皆さんドン引きするが、慣れるとはまる。唐辛子の辛さは、甘みが加わると奥行きができる。これが麻薬効果。そこにエイ独特の食感と、今にも発酵しそうなギリギリ感、病みつきになる。

五壮洞は、地下鉄2・5号線乙支路4街駅8番出口を出て家具市場を直進、最初の交差点を左に曲がったところだ。通りの左側が中部市場、右側が冷麺屋の並びとなる。手前から「シンチャン麺屋」、「五壮洞咸興冷麺」、そして「五壮洞興南チブ」。冷麺横町というわりに3軒しかない。
「もともとは市場に隣した名もない冷麺屋が、美味しいと評判になるにつれて、出身地の名を名乗るようになりました。みんな支店も作らない主義だから、本当に3軒だけです。」と、店の前で行列を整理している人が言っていた。

さて、どこで食べるか? 創業の古い「五壮洞咸興冷麺」と「五壮洞興南チブ」は有名だが、あまりにも混んでいる。並んで、食べて、終わったらすぐ立って…。繁盛店だから仕方がないが、なんだかベルトコンベアーにのっているみたいだ。そのせいか、インターネット上では「シンチャン麺屋」を推す人が意外に多い。エイの量も心なしか他の2店より多いような…。興味があったら。ぜひ食べ比べてみてください。