韓国でする「孤独のグルメ」④笑豪亭のコンナムルクッパ
晩酌はワインが多いため、最近は夕飯も「洋風」ばかりになっていた。日本にいたらおそらく、もう少し酒のバリエーションが豊かだったと思う。ここで日本酒はべらぼうに高いし、韓国のお酒は残念ながら美味しいと思ったことがない。
マッコリ？
うーん、美味しい手作りのでもがあれば。でも、わざわざ市販のを買ってまで飲みたいとは思わない。
今はもう病気で飲めなくなってしまったが、私の父の晩酌は凝っていた。夕飯時になると、「何を飲む？」と仕事中の父に聞きに行くのは私の仕事で、そのたびに夕飯のメニューを聞きかえされた。
「お刺身」「じゃあ日本酒、冷で」
「餃子」「それはマオタイ酒」
「トンカツ」「うーん、ビールかな」
「ハンバーグ」「ワインあったっけ？」
「カレーライス」「……」
うちは子供が多かったため、カレーライスは定番メニューだったが、そのたびに父は困った。それに合うお酒が思い浮かばない。その後、私はインドではあまりお酒が飲まれないことを知り、なるほどと妙な気持ちで合点した。
父は考えたあげくに、いつも「ウィスキー」と答えた。
カレーにウィスキーかあ…。
父は若い頃、インドに入れ込み、当地で長い旅をしていたことがある。70歳を迎えた頃、約30年ぶりにインドに行きたいといい、私も一緒に行ったのだけど、行きの空港でウイスキーを買い込んでいた。
「あの頃とまったく同じだな。こうやってオールドパーを飲む」
父が若い頃、スコッチウイスキーは高かった。外国旅行のお土産の筆頭。父の中ではインド旅行とウイスキーが結び付いているのだと、またまた勝手に合点した。
私には父のように専属コックがいないので、夕飯は自分で作るしかない。家族の好みを一応は考慮するが、ワインのせいで、どうしても洋風に偏る。そうしていると、たまに無性に韓国料理が食べたくなる。そんな時はランチタイムで一人でグルメする。
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韓国でする「孤独のグルメ」④
笑豪亭のコンナムルクッパ
長いソウル暮らしの中で、大方の韓国料理は食べてみた。最初から「これは美味しい！」と感動した料理もあったし、「何だかな…」と思いつつ数年してから「なるほど」と味がわかったものもある。前者の代表が「キムチチゲ」「メウンタン」「スンドゥブチゲ」など、後者は「ポッサム」「コンククス」、そして「冷麺」である。
すぐさま美味しいと思ったのは、いずれもニンニクとトウガラシがふんだんに使われた辛くて濃厚な料理。「ザ・韓国料理」というべき味わいで、わかりやすかった。一方、わからなかったのは、韓国風にいえば「淡白な味わい」というやつ。本当に美味しいと思うまで5〜6年はかかったと思うし、今も「この店のなら」と限定付きである。
人によっては一、二度の韓国旅行で「あの店の冷麺が美味しい！」と言う人もいる。のろまな私は羨ましいと思う。
コンククスや冷麺なども一人グルメの定番なので、いずれ書きたいと思うが、今回は私がもっとも好きな韓国料理、コンナムルクッパの話である。もとは食の都・全州の御当地料理、韓国人にはビビンバ以上に知られている。以前は全州に行かなければ食べられなかったのだが、最近はソウルや釜山でも目にすることが多くなった。
料理はいたってシンプルだ。ベースは豆もやしを土鍋に入れ、ご飯とだし汁と一緒に煮たものに、生卵を一つぽーんとほりこむ。店によってアクセントにキムチやチャンチョリム（牛スジ肉を醤油で煮込んだもの）などをトッピングする。透明感のあるだし汁と豆もやしのしゃきしゃき感、さっぱりとした味わいだが、これがひっぱる。
大のコンナムルクッパ好きである私は、専門店があれば必ず入るし、フードコートなどでもそれがあれば注文する。どこで食べても大きくはずれず、全州の韓一館に及ばずとも、それなりにおいしい。
ところが今回、びっくりするようなコンナムルクッパに出会った。出できた瞬間に、「あ、これ違います」と言いたくなるような風体。あわててメニューをもう一度見直すが、やはり「コンナムルクッパプ」とある。
腑に落ちないが食べてみる。なるほどね〜、これは、これは…。
お店の名前は「笑豪亭（ソホジョン）」。首都圏に10店舗ほどある安東ククシの専門店で、私が入ったのは汝矣島店（02-780-0363）だ。麺料理で有名なお店なのに、ついコンナムルクッパを注文してしまったのである。
出てきたものは予想と違ったが、後悔はしなかった。いや、是非もう一度食べてみたいと思う。コンナムル以外にも大根や里芋の茎などが入っており、どちらかといえば慶尚道のタロクッパを思い出させる。辛くて濃厚な味が好きな方にオススメです。
