韓国でする孤独のグルメ③

先日、20年ほど前に韓国語を一緒に勉強した時にクラスメートに会った。
「変わらないね〜」
「本当」
今回は正直に言った。彼女は本当に昔のまんまで、顔も声も可愛い。でも、最近、正直でない時もある。45歳ぐらいからかな。男も女も会うたびに「おいおい老けたな」と思う人出てくる。よく言われる話だが、男性の場合は髪の毛とかお腹とかわかりやすいし、そうじゃなくても、「こいつ不摂生しているな」「病気かな」なんて背景も単純に考える。でも、女性の場合は微妙だ。何かの気苦労…、もうちょっと陰影のある物語を想像する。

それはともかく、昔と今も変わらぬ可愛い友人に「『独りグルメ』の連載を読んでいたらね、無性に会いたくなった」と言われた。
へえ〜、韓国のホテル置きのタブロイド紙なんて、読む人いないだろうと気楽に書いていたのだけど…。


韓国でする独りグルメ
  
その3 トスネのテンジャンチゲ


最近になって、韓国でも一人グルメの人は増えてきたが、それでも敷居の高い店は多い。特にカルビ、サムギョプサル、プデチゲなどは難関中の難関だ。でも私の友人の中にはかねてから、あえて「一人サムギョプサル」や「一人プデチゲ」をやりきる剛腕の日本人駐在員(35歳・男性)や在日韓国人ビジネスマン(46歳・男性)もいた。 

「何名ですか?」
「一人です」
「え、ええー、一人??」
学生バイトなら困った顔をするぐらいだが、アジュンマだと大げさに驚く人もいる。

「うちは二人前からなんですけど」
「じゃあ、二人前下さい(きっぱり)」

偉いなと思うのは、彼らがたくさん食べるからじゃなく、店の雰囲に負けないことだ。この手の店は座敷タイプが多く、わざわざ靴を脱ぐ必要がある。そして4〜6人用の大きなテーブルに一人でドカンと座るところで、人間の大きさが試される。周囲では家族連れや友人同士がワイワイやる中、一人もくもくと肉を焼く。がんばれ、単身赴任。

ということで、焼肉店とは、一人グルメにとって強敵だ。私が先日行ったトスネ(☎02-2672-2255)も、そんな雰囲気の大型焼肉店、庶民のために廉価な輸入焼肉を提供する一方で、テンジャンチゲがとても美味しいという評判だ。

普通、焼肉店でテンジャンチゲというのは肉を食べた後の「シメ」なのだが、ネット情報によればランチタイムに限ってテンジャンチゲのみのオーダーが可能だという。そこで勇気を出して一人で行ってみた。
「何名ですか?」(ほらきた)
「一人です」(きっぱり)
緊張して答えたが、従業員の女性は「はい」と言っただけ。無言で炭を運んできた。
よかった、一人でも大丈夫だ。

ホッとしたところに、テンジャンチゲが登場した。
わ、すごっ…。
グツグツと煮え立った鍋には、あふれんばかりのナズナとノビル。おいしそう〜。来てよかった。チゲは田舎風の濃い味わいだが、これも愛知県出身・赤だし育ちの私には美味しい。
しかし、あれ? よく見ると、大きさが隣の二人連れと同じだ。つまり、ここもやはり二人前からなのだろうか。心配したのだが、会計は六千ウォン、一人前の価格だった。

「うちは一人前も二人前も同じだよ。前に半分の量で作ったら美味しくなかったからやめた。サービスだよ、サービス」
大らかな女性店主に拍手。いい店だなと思った。
と、その瞬間、びっくりすることが起きた。女性従業員の中の一人が、火にかけたテンジャンチゲの土鍋を素手で持ちあげたのだ。
「ひえ〜! 熱くないんですか?」
「いや、別に」
韓国人のお客さんもびっくりしていた。場所は地下鉄9号線の仙遊島駅近く。何かのついでがあれば、一度行ってみてください。