安部総理とパク・クネ大統領の英語演説

極東ブログ」の5月13日のエントリー「安倍首相は英語の発音矯正をしたらいいのに」では、韓国のパク・クネ大統領の英語についても少しふれてあった。
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2013/05/post-9228.html#comments
 
私自身は英語に詳しくないので、どちらがうまいかなんてことはわからないが、韓国でも「朴大統領の英語」が、ちょっとした話題になっていた。
「及第点」「一生懸命練習したようだ」
市井の評価は高かったが、ネット上では物議をかもしだしていた。きっかけとなったのは演説の翌日、野党民主党のジョン・チョンネ議員(@ssaribi)のツイッター上のつぶやき。「<パク・クネ大統領と歌手サイ>英語の実力はサイが上にも関わらず、大統領は英語で演説、サイは韓国語で歌う。どちらが誇らしいか」というものだ。



人々の反応は素早く、「そうだ!異議なし、大韓民国の誇りが大切だ!」という人から、「おばかな男だね、英語は国際語。それを使わないのは、国際感覚のないただのダメな人だろ」など喧々諤々の議論となった。一部の人が「金大中元大統領も英語で演説」などと異議を申し立て、直後にツイートは削除されたという。
http://www.ohmynews.com/NWS_Web/View/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001863251

韓国の場合、原理主義的な民族主義者は民主党の一部を含めた「左派」に多く、彼らは日本に対して以上に、米国との関係に敏感である。米国に媚びるような態度はいささかも許されず、民族の誇りにおいて断罪されなければならない。彼らのポリシーからすれば、大統領はへりくだって英語なんかで喋る必要はなく、堂々と韓国語で演説すべきということになる。

とは言ったものの、現実には「左派」が尊敬する金大中大統領は過去に英語で演説し、「カイライ李明博」こそが韓国語で演説したというから、前提はすでに崩れている。ちなみに李明博大統領は誇りある韓国語で、「米韓FTAの重要性」をしっかり語ったという。よって民族主義的スコア―は差し引きゼロになっただろうか?

極東ブログには、そのエントリーの前段階であるツイッターへの反論が出ている。「政治家には英語の発音なんか関係ない」というようなニュアンス。そうかもしれないなと思う。でも、一方で、やはりできることは努力すべき。努力したことは評価されるものだ、とも思う。パク大統領が一生懸命演説の練習をし、その結果安部首相よりも上手に演説出来たとしたら、そのことは無視されるべきではないと思う。

と、あえて思うのは、最近、日本のメディアで語られる「韓国にしてやられた」的な議論を見ていると、ちょっと韓国人を過小評価しすぎていて、痛い目にあうかも…という気がするからだ。
「為替操作」「技術のサルまね」「宣伝もうまさ」「ロビー活動」「国家の支援」、その裏では「ずるい」とか「ずうずうしい」とか「しつこい」とか「もうおつきあいはやめよう」ということがグチグチグチグチ語られる。

もちろん私だって、韓国ではひどい目にあってきた。彼らには「日本の常識なモラル」(世界の常識ではないが)は通用しないし、時にはびっくりするほど大胆な不正をする人々がいる。

例えば、最近話題のSAT(Scholastic Assessment Test)不正事件。SATとは米国の大学を受けるための共通試験で、米国の受験生はもちろん外国からの留学生などにも義務付けられたものだ。韓国は米国への進学熱が異様に高い国で、ソウル市内にはこのSAT試験の専門予備校が50か所以上もあり、そこの一部講師が試験問題を不正入手し、受験生に売ったのだという。

この不正事件のせいで、5月に予定されていたSAT試験が、韓国では直前にキャンセル、多くの受験生が迷惑をこうむった。
「予備校の先生と親が率先してカンニングさせるなんて、信じられない。韓国は最低の国」

被害をこうむった在韓外国人の親たちが怒るのはもっともだし、韓国人自身も「大統領報道官のセクハラ事件よりも恥ずかしい」と言っている。しかし重要なのは、その一方で、不正をしていない多くの受験生がいること。その数はおそらく日本人でSATを受験する人の3倍以上はいると言われている。彼らは幼稚園の頃から英語を勉強し、小中高の間に一度は外国に留学し(お金のない人はフィリピンでも)、その大半は韓国で暮らしながらも米国の大学生と同じ土俵で勝負しているのだ。

そういう努力の総体が、すべて無駄になるとは思えない。
安部総理大臣もまじめな人だ。優秀な発音矯正トレーナーがつけば、相応の努力をされて、成果を出せるのではないだろうか。そういうのは「無駄な努力」ではないと思う。
 
そういえば、以前、カナダ人の友人がコロンビア大学在学中に柄谷行人の講演を聞く機会があったという。
「でもね、ポストモダン思想の難しいテーマだったことに加えて、彼の発音があまりにも聞き取りにくくて、まったく内容がわからなかった」と言っていた。

ジャパンーズイングリッシュで何が悪いんだというのはわかる。でも、やっぱり最善を尽くした方がすがすがしいかなと、思った。
 
それともうひとつおまけ、米議会では韓国語で演説した李明博前大統領も、冬季オリンピック誘致にあたっては英語で演説した。のどが痛くなるほど、一生懸命練習したそうだ。
http://youtu.be/_oklOXhfjtA