韓国大統領選① どうして文在寅候補は負けたのか?

韓国の大統領選の最終日、仕事やら私事やらで釜山にいた。今回の選挙で釜山は最大の激戦地と言われ、与野党の候補者ともに最終日にはここを訪れることになっていた。

偶然ではあったのだけど、釜山駅で両者の最終遊説に立ち会うことができ、比べて「これは文在寅ムン・ジェイン)だな」と思った。集まっている人数、熱気、そして「若さ」。朴槿恵(パク・クネ)候補の遊説が「老人」ばかりなのに対し、文候補の支持者は20〜40代の人が多い。これならスマホでサクサクっと勝てるだろう。後輩たちに投票を呼び掛ければ、あっという間に…と思った。

が、結果ははずれた。

私だけでなく、多くの人がはずした。評論家、日本の大学教授、在日韓国人の運動家などの専門家だけでなく、飲み友やママ友も、多くがはずした。

どうして、はずしたか? 

選挙戦全般で与党有利の予想がでていた。にもかかわらず、終盤には多くが野党勝利を確信してしまった。そして、その予想は見事にはずれ。このあたりの「勘違い」、が、野党敗北の理由かもしれないと、後で思った。。

さて、朴槿恵(パク・クネ)はどうして勝てたのか? 理由は簡単だ。文在寅ムン・ジェイン)率いる野党民主党が、自分たちが思ったほど国民の支持を集められなかったからだ。それじゃあ答えになっていない?  たしかに。でも、私にとって今回の選挙は与党セヌリ党の勝利というよりは、民主党の敗北というイメージが強い。文在寅が負けたから朴槿恵が勝利した。文在寅候補とその支持者は国民の過半数に拒否された。どうしてそうなってしまったのだろう?

キーは50代にあるという。
韓国のマスコミや日本の朝日新聞なども、朴候補の勝利を決定づけたのは50代の与党支持率(62・5%)とその驚異的な投票率(89.6%)としている。つまりもっとも人口が多い世代で、もっとも投票率が高く、そこで朴候補が支持されたということだ。

朴槿恵(パク・クネ)62.5%  文在寅ムン・ジェイン)37.4%
彼らの子供世代である20〜30代では、与野党の支持率が正反対であり、まさに「親子対決」の様相だったのだが、底力を発揮したのが親の側だった。投票率は奇跡の89%超え、さらに彼らは若者世代の飛び道具も手にした。

今回は若者のお株を奪い、中高年層がスマートフォンソーシャルメディアを駆使。票の掘り起こしにつながったとみている。
 (「スマホ中高年朴氏援護」12月22日付け朝日新聞

この朝日新聞の記事には、50代の与党支持が勝利の決定打になったとは書いてあるが、しかし50代がここまで朴候補を支持した理由については書いていない。韓国国内でも50代に関しては、「反朴」も強いのではないか思われていた。
「50代がそれほどパク・クネに入れるとは思わなかった。だって、朴正煕独裁政権下、彼らがもっともやられた世代だから。あの時代を思い出したら、やっぱり娘には入れられないと思うけど」(50代男性・釜山)
「3回のテレビ討論で、パク・クネが能力として満たないというのは、明らかになったはず。お年寄りはともかく、50代がどうしてそれに気づかない?」(50代男性・ソウル)
「50代でもおそらく富裕層がパク・クネに入れたのでは。野党になったら、また金持ちが叩かれるから」(40代女性ソウル)

 私の周りには40〜50代が多く、彼らの意見は嫌でも耳に入る。その多くは野党支持者であり、「同世代に裏切られた」彼らの感想は、それ自体とても興味深いものだった。そしてあらためて、文在寅敗北の原因がわかったような気がした。
 彼らは傲慢だ。
 彼らとは文在寅候補とその支持グループである。文候補はもともと故盧武鉉大統領の秘書室長であり、周辺人士も多くがかつて「盧武鉉の親衛隊」=「ノサモ」のメンバーだった。社会民主主義的な政策を標榜する彼らに共感できる部分は多いし、国を変えようとする情熱もすばらしいと思う。でも、私自身は彼らに対してイライラすることが多い。今回の選挙を通して、それがどうしてかわかった(もちろん、それが文候補の敗北の原因全部ではないと思うが)
 
彼らは、常に自分たちは正しく、常に被害者であるという。
韓国社会の現在の問題はすべて李明博政権や財閥のせい、あるいはそれに操られるマスコミのせいだという。自分が必ず正しいという傲慢さもさることながら、私にとって気持ち悪いのは、正しいと思ったことを正しいと言いきる、そのためらいのなさである。世の中にはいかにも正しいことと間違ったことしかないといった態度。人間も社会ももっと矛盾に満ちたものではないのか。
「まるで新興宗教みたい」
そう言った友人がいたが、なるほどそうかもしれない。

それとは別に、今回の選挙で民主党に対して「これはちがうだろう」と思ったことは二つある。
まずは最初のテレビ広告。「庶民派を自負する文候補の家庭での様子を映しだした」という動画。これに関しては前回のブログに書いた。
もうひとつは「かつては親が子供に投票を説得した。今は子供が親を説得しよう」というニュアンスの選挙広告だった。
20〜30代に50〜60代を説得させる??

それにでなくても、今の50代は若者たちに腹を立てている。
自分たちは儒教精神に従って目上を敬ってきたが、今の若者は大人を尊敬しない。自分の親以外の言うことを聞かないし、振る舞いも傍若無人だ。そのくせ、経済的には親によりかかる。進学も結婚も親の金、子供の留学費用を祖父母にねだる。日本でいうニートなんて可愛いもの。韓国で親はいくつになっても子供の面倒の面倒をみる。
経済的に甘えるだけ甘えて、政治的には自分たちの主張が正しいという。それは生意気だ。
民主党は「若者の党」を自負している。折からの少子高齢化で若者が大事だというのはわかるが、でもこの国をここまでにしたのは中高年だ。バカにするのもいいかげんにしろ――そこらへんがスマホとSNSに現れた。屈辱をしのんで子供たちに教えてもらってきたスマホの使い方。IT、おかげでカカオトークツイッターぐらいは自分でもできる。

選挙戦最終日、野党支持者は野党勝利を確信していた。
彼らから発信されるツイッターフェイスブックの書き込みは余裕にあふれていた。選挙当日も午前中の段階で投票率が高く、また「かつてないほど投票所が満員」という話が流れ飛び、それも「投票率が高い=野党勝利」というイメージにつながった。
それを聞きながら、ならばと投票所に向かった50代がいなかっただろうか?
朴も文もイヤと投票を見合わせていた、かつての安哲秀候補支持者が、最後の最後にどんな行動をとっただろう?

選挙後にある50代男性が語ったことはは印象的だった。
民主党支持者はパク・クネは知性的ではないというけれど、支持者の中高年はあんまり気にしていないのかもしれない。そもそも僕の世代はみんな朴政権の時代に嫌な思いをした思っていたけど、それも当時大学生だった人だけなのかもね」
当時、韓国の大学進学率はわずか20%だった。それが現在は80%。どの家庭でも子供世代の学歴の方が高い。