6万人のベトナム人妻

ところで、釜山の話題でもうひとつ。昨日の朝鮮日報、日本語版にも翻訳掲載されていた記事だ。

ベトナムからの帰化妻、子ども2人と飛び降り自殺
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/11/24/2012112400642.html?ent_rank_news

 23日午前11時20分ごろ、釜山市北区のアパートで、韓国人と結婚して韓国国籍を取得した元ベトナム人の妻(27)が長女(7)、長男(3)を抱いたまま、マンション18階のベランダから飛び降り自殺を図り死亡した。室内には「母子3人の最後の手紙」と題する遺書が残されていた。

ブローカーの斡旋による韓国男性と外国人妻の「国際結婚」が話題になり始めたのは1990年代から、それが2000年代に入ってまさに燎原の火のごとく広がった。当初は農村部が中心で、2006年に私が『もう日本を気にしなくなった韓国』(洋泉社)を書いた時には「農村男子の4分の1が国際結婚」と言われるほどだった。
それが最近では「4割が国際結婚」とまで言われ、さらに都市部の低所得層にも広がっている。2011年1月の時点で約21万人、韓国政府はこの女性たちは「結婚移民者」と呼んでいる。

この取り組みのお手本は、「先進国」日本だった。「農村の嫁不足解消のため」と1980年代の日本では、行政主導でアジア各地から女性が集められ、その中にはフィリピンや中国の女性とともに韓国女性もいた。その韓国が、わずか10年後には自分たちの農村に外国から「嫁」を迎える立場になった。

韓国の農村に「嫁いでくる」女性を国籍別に見ると、初期は中国人(朝鮮族)が圧倒的だったが、最近はベトナム人が最も多くなっている。2011年に韓国人男性と結婚した外国女性の出身国別ランキング化以下の通りだ。


韓国男性の国際結婚の相手(2011年、単位:名)
1 ベトナム     7636
2 中国     7549
3 フィリピン    2072
4 日本     1124
5 カンボジア 961

(2012年統計庁)

 以下、日本、カンボジアアメリカ、タイ、ウズベキスタン、モンゴルと続くのだが、ベトナム人(7632名)と中国人(7549人)がダントツで、両者で全体の70%を占める。ただ、中国人の場合はその多くが朝鮮族という「同胞」であり、また離婚件数も高い。2011年の中国女性の離婚件数は4783名、ベトナム女性の1931名の2倍以上だ。結婚件数から離婚件数を引いて婚姻の継続数をみるなら、ベトナム女性がダントツに高い。2000年以降に韓国に嫁いだベトナム女性は約6万人と言われる。

韓国政府は「結婚移民」を政策化し、さまざまな法整備もしてきた。それは「多文化政策」ということで、本人や子供の教育援助を中心にそれなりの予算も確保されていた。
ただ、韓国エリートが指導する多くの移民対策の実態は「絵に描いた餅」、外国人妻が直面する問題へはなかなか近づけない。

ベトナム女性の自殺が報道されるのは一度や二度ではないし、今年の8月には貧困と看病疲れによる日本人妻による夫の殺害事件も起きている。

釜山で亡くなったベトナム女性は、8年前に韓国に移住し、1男1女をもうけ、昨年には韓国国籍も取得していた。しかし、家庭不和で今年1月から離婚訴訟中だった。
女性がベトナム語で書き残した遺書には、「夫の親戚が子どもに会わせてくれない。子どもがいなければ生きている意味がない。一緒に死ねば永遠に(子どもと)暮らすことができる」と書かれていたという。

このケースで、妻の側に子供の親権が認められることはまずない。ベトナムに子供を連れて行くこともできず、「一緒に暮らすため」といいうのは、本当にそうだったのだと思う。

韓国政府の政策は、「貧しい外国人妻への同情」をもとに、「立派な韓国人になること」の同化支援ばかり。もっと基本的な男女平等意識や、それにともなう法整備がされなければなんともならない。
一方で、もともと社会主義の国としては際立って女性の人権への理解が低いベトナムの側にも問題がある。

 遺書の最後は「母子3人を同じ棺桶に入れ、ベトナムの地に埋めてほしい。これまで一緒に暮らしてくれた夫を許す」という言葉で結ばれていたという。