進化する韓国料理

 
フュージョン、エコ、グローバル化――この10年

保守的だと言われてきた韓国人の食生活だが、最近になって大きく変化した。外国料理のレストランが増えただけでなく、韓国料理そのものも「進化」した。きっかけとなったのは1997末の経済危機。今回はこの10年余りの流れをおってみた。

IMF事態とフュージョン料理>
 1997年末の金融危機。韓国は国家倒産寸前まで行き、ついに国際通貨基金IMF)の緊急支援を受けるに至った。倒産、リストラ、人々は職を失い、外食産業も大ピンチ。閑古鳥の鳴く高級ホテルのレストランで、シェフたちは頭をひねった。
「何かいいアイディアはないか?」
そうして生まれたのが、「フュージョン料理」というジャンルだった。フレンチやイタリアンほど高級ではなく、でもちょっとスタイリッシュな韓国料理。これが、江南エリアの若者を中心に人気を得ていった。
 同じ頃、仕事を失った40〜50代の経営者やサラリーマンも、虎視眈々と起死回生のチャンスを狙っていた。
「いつまでも落ち込んではいられない、何かしなきゃ。」
彼らが注目したのは、わずかな退職金や政府からの融資でも始められる手軽なビジネス、小規模な外食産業だった。調理師学校は40〜50代の男性で満員となった。
さて、この人たちの参入が、外食業界に革命をもたらした。商品開発や営業戦略というビジネスの視点が持ち込まれ、ハンバーガーショップぐらいしかなかったフランチャイズも一気に増えた。当時の新聞を見ると、「この秋、有望な外食産業」ということで、三つが紹介されている。①フュージョン式石焼きビビンバ ②石焼きチーズ飯 ③トッポギ専門店
このうち成功したのは①と③だ。たとえば今や海外支店まである「行列ができる店・モッシドンナ」の海鮮チーズトッポギ。それまで子供のオヤツだったトッポギが、ムール貝とチーズの参加で、大人も食べる鍋料理に進化した。
 
<経済回復とヘルシーフード>
 2000年代中盤になって経済が安定の兆しをみると、ウェルビン(well being)ブームが起こる。韓国はもともと医食同源の国であり、これまでも参鶏湯など滋養料理のジャンルはもちろん、仏教系の菜食料理レストランもわずかながらに存在した。健康志向であるウェルビンは大歓迎。野菜中心のベジタリアン料理、無農薬有機栽培にこだわるオーガニック料理などのレストランが続々と出てきた。
 2006年に景福宮駅横の真横でオープンしたエコ・パプサンはその名の通り「エコロジーな食卓」がコンセプト。無農薬野菜を利用した低カロリーのビビンバなどが人気となる。
一方、同じ年に弘大前にオープンした自然派カフェ・スッカラでは、在日韓国人3世の若いオーナーが、和食やエスニック料理と伝統韓国料理の融合させた斬新なメニューを次々にお目見えさせていた。
このカフェ・スッカラの、「カフェごはん」という形式が若い女性などに大好評で、オフィス街にも住宅街にも小規模なカフェが出来ていく。
「本でも読みながら1人で気軽にゴハンが食べられる空間がほしかった」(カフェ・スッカラのオーナー)
なるほど、韓国人にとっての食事はコミュニケーションだけれど、たまには一人になりたい時もある。梨泰院に出来たカフェ・ゴメホームもその一つ。本店の薬膳料理が手軽なプレート料理やランチボックスで食べられるようになった。
 
グローバル化
 それにしてもすさまじい変化だ。ソウルをよく訪れる外国人は「来るたびに街が変わっている」と驚き、「美味しかったレストランがなくなっている」と嘆くが、韓国人にとってもそれは同じことだ。でも、この新陳代謝こそが、外食業界だけに限らない、韓国経済全体のパワーの源であり、それがサムスンやLGなどの大企業をも支える。
今や世界でもっともパワフルなグローバル企業の一つとなったサムソンだが、系列のCJフードもやはり韓国料理の世界進出を、企業目標の中心に位置付けている。2009年にオープンしたビビゴというビビンバ専門店は、そのために企画されたレストランであり、コンセプトも戦略的だ。例えば、看板のピビンバは、全てを個人の嗜好に合わせてアレンジできるようになっている。
① 形式 サラダプレート ビビンバ 石焼きビビンバ
② ご飯 白米 赤米 玄米 麦飯
③ トッピング 牛肉 鶏肉 豚肉 豆腐
④ ソース コチュジャン レモン醤油 胡麻ソース サムジャン
この中から一ずつ選んで自分のオリジナルビビンバを完成させる。これなら、アジアはもちろん、欧米やアラブ圏でも通用する。狙いは当たったようで食の激戦区シンガポールなどでも「行列のできる繁盛店」となっているそうだ。
そのCJフードの直営店で見つけたのが、冒頭のレトルトご飯だ。こんな「邪道」をも受け入れてしまう韓国の人々。商品化されたラーメンチーズも合わせて、これこそが彼らの「強さ」なのかもと、あらためて思う。

データ) 
モッシドンナ 本店 住)ソウル市 鍾路区 安国洞 17-18 電)02-723-8089
エコ・パプサン 住)ソウル市鍾路区積善洞94厚ビル2F 電)02-736-9136
カフェ・スッカラ 住)ソウル市麻浦区西橋洞327-9 電)02-334-5919
コ・カフェ・ゴメホーム 住)ソウル市竜山区漢南洞736-9 電)02-796-4565
ビビゴ ソウル市中区雙林洞292 CJワールドフード内 電)02−6740−7979

月刊「やきにく」9・10月号より
http://www.yakiniku.or.jp/sho/book/201209.html