中国のことが気になって猫の話が書けない

ソウルの路地猫の話を書こうと思ったのだけど、中国でのデモのせいで、どうにも落ち着かない。前にも書いたよう韓国はかつてないほど「平穏」で、隣国二国が荒れれば荒れるほど、「冷静でいよう」という自意識が芽生えるのかもしれない。「僕たちは経済活動や勉強や借金の返済や法事や墓参りのことで忙しいから(もうすぐ秋夕なので)」――みたいな。
私自身も中国や新大久保での暴力行為の映像や、自分党総裁選での「日米安保の強化強化!」と叫ぶ候補者たちの様子を見ると、「ひょっとして韓国が一番大人なのでは?」という、かつてない思いにかられる。とくに、年末の大統領選を前にした今、野党候補者のうちには頭の良さが光る人もいて、この人ときっちり渡りあえる日本の代表(次期総理)はいるんだろうかと、心配にもなる。

韓国が大人っぽくみえるようになったのは、文字通り「成長」したからだと思う。子供が大人になるのと同じことだ。サムソンやLGが売上を伸ばし、国家の経済数値が上がり、国や国債の信用度が上がることを、経済成長というのだろうけど、それとともに人格的にも大人になる。成長というのはトータルなことで、やはり経済だけとか人格だけとか片方だけ成長するのは不自然なのだ。
もちろん人格はお金で買えるものではない。でも、最近は「やはり貧すれば鈍するかも…」というため息を、聞く回数が増えたような気がする。その多くは日本人からだ。
日本は鈍してしまったのだろうか?

竹島問題は騒ぎにならないけど、それについては韓国でも結構関心がもたれている。日本の経済的不振、韓国の相対的優位に関して、だ。
たとえば、9月16日の『韓国経済』の記事 
日,한국 무시하더니 몰락…상상도 못한 `大반전
(日本、韓国をばかにしていたら没落…想像もしなかった大逆転)
http://news.hankyung.com/201209/201209160857g.html?ch=news
 あれ、このタイトル、昨日見た時とタイトルが変わっている。コメント欄で記者がボロクソ言われていたから、変えたんですね。韓国ではよくある話。安易に反日的なタイトルでウケを狙うマスコミに、頭のいい読者が反論して、その日のうちに内容が変わるいうやつ。この記事のコメント欄も、「国債の信用度や国家競争力ぐらいのことで、日本に勝った勝った喜ぶな。ばか」という内容のもの多かったからな。さらに「そんなことで喜ぶより、われわれも中国人をばかにするのをやめなきゃ」という書き込みもあった。

昨日、乗ったタクシーの運転手さんともその話になり、「でも、日本は底力があるから。技術力の面ではまったくかなわないですよ」と言っていた。この運転手さんは、日本語を独学で勉強したそうで、一生懸命、私の娘(小学生)に日本語で話しかけていた。(娘はかたまっていたけど)。
日本人観光客のために日本語の勉強をした運転手さんは多く、そこで最近は中国語も勉強するのか聞いてみたが(観光客数ではそろそろ中国が日本を逆転するので)、中国語はしないという。
「中国人はタクシーをあまり利用しないのですよ。まだまだ団体バスが多いし、お金持ちは専用通訳と高級車をチャーターして回るから」と言っていた。

この中国人観光客と韓国人との関係もまた微妙。こちらに長く住む中国人の友人によれば、韓国人の対抗意識がまたすごいのだと。というのは、私と別の日本人の友人が彼女に、「中韓関係はいいから、いやな思いをすることはないでしょう」と言ったら、そんなことはないと。ある時には「中国は経済大国となったらといって威張るんじゃない。まだまだ韓国には勝てないぞ」と露骨に云われたり、また、急ぎで「模範タクシー」に乗った時には、「中国人が模範タクシーに乗れる時代になったんだね」と、運転手がお客向かって、のたまわったとか。
冒頭に韓国は成長して「大人になった」と書いたが、一角には当然そういう「子供っぽい人」もいるわけだ。

ただ、全体的には成長したのだと思う。

今回の領土問題をめぐる騒動が始まった頃、日本の週刊誌からインタビューをうけた。「韓国人は竹島問題となると、いつもどうしてそんなに興奮するのですか?」「韓国の反日感情は相変わらずでしょう?」
 その週刊誌の性格からして、「反日で盛り上がる韓国」を裏付けるコメントがほしかったようだけど、でも残念ながら「相変わらず」ではないのだ。
 去年のあなたと今年のあなたは同じですか? だとしたらそれは問題ですよ。国家も同じ、やはり成長するのですよ。
 という話だ。
 中国だって、これからどうなるかわからない。成長が止まり停滞(あるいは後退)している「大人の自分」と同じに考えていけない。子供の成長した部分を喜び、褒めるのが大人の仕事。怒ってばかりいると、「いやな大人」として嫌われるだけ。そのまま淋しい老後を迎えてもいいというなら、それでもいいのだけど。