韓国の総選挙に関して、ちょっと思ったこと

多くが予想をはずした。
昨日の韓国の総選挙の結果だ。300議席小選挙区246、比例54)のうち与党セヌリ党過半数の152議席を獲得、一方、野党民主統合党は首都圏を中心に議席を伸ばしたものの、統合進歩党との選挙協力を組んで目指した与野党逆転には失敗。多くの予想を覆した。

私自身も、今回は野党有利だと思っていただけに、結果には少し驚いている。これはつまり、思った以上に韓国人の多くが現状肯定を望んでいるということだろうか。李明博政権と財閥グループが主導する、荒稼ぎ経済による恩恵(主には機会の拡大)が、野党が訴える消極的な「格差是正」よりも、魅力的に映ったということだろうか。
(実際に昨年に比べると失業率は下がっているし、ぱっと見の景気の良さはある。割りを食っている人も、怒る前に自分の上がれるチャンスを確保しようと思うのかもしれない。それはそれで韓国人らしい。)

いろいろな新聞を見渡してみた限りでも、選挙結果に対する包括的な分析は出てきていない。選挙前は饒舌だった野党支持のブロガーも、かなり落ち込んだのか口数が少なくなっている。https://twitter.com/#!/unheim

また野党系のハンギョレ新聞やオーマイニュースは、反省モード。ハンギョレ新聞は社説で「セヌリ党の勝利、民主党の自滅」と言っている。
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/527933.html

そんな中で、一つだけ気になるのは、あいかわらず地域対立が問題にする向きがいることだ。さすがに韓国にはいないが、在日韓国人にはまるで地域対立が選挙結果の主要因のように語る人までいてびっくりする。なかには、それを「1000年以上の」と三国時代にまで結び付ける人もいる。(本人たちは冗談かもしれないが、日本人はそういうのをすぐ信じるので要注意だ)。

韓国は「地域対立」という幻想を「現実」に変えたのは、朴正煕であり、金大中だ。もちろん、一番悪いのは朴正煕であり、割りを食った金大中はそれを逆に利用せざるを得なかったにすぎない。これに関しては、翻訳家の米津篤八氏の解説がまとまっていてわかりやすいので、以下引用。

63年の大統領選においても、朴正煕の得票が尹ボ善を上回ったのは、慶尚道全羅道、済州道だけでした。このことは、朴政権以前には、国民の投票行動に「地域対立」は表れていなかったことを示しています(朝日63年10月16日、文藝春秋97年12月号「金大中インタビュー」)。
朴政権は脆弱な正統性をカバーするために、地域ナショナリズムに訴え、軍人と慶尚道出身者を多用し、地元への利益誘導政策を取りました。尹政権下の61年に、長官・次官33人中8人(24.2%)だった慶尚道出身者は、63年の朴政権下では30人中12人(40.0%)に増え、逆に全羅道出身者は6人(20.0%)から、わずか3人(10.0%)に落ち込みました(『朝鮮半島』小牧輝夫編、アジア経済研究所)。
また、重工業地帯や自由貿易地域、鉄道、高速道路の建設など、慶尚道へのあからさまな利益誘導のため、もともと経済的に立ち遅れていた全羅道はますます貧しくなり、ソウルに出稼ぎに行く人が増えました。その傾向は、全・盧政権においても継続しました。

http://www.han.org/oldboard/hanboard3/msg/3649.html

私自身の印象としては、ずっと以前に在日1世の方たちをインタビューした際に、「済州島出身者への偏見は強かったが、全羅道慶尚道という対立はそれほどでもなかった」ということ。現在の韓国では、済州島への差別意識に出会う局面はほとんどなく、とするならやはり全羅道差別は朴正煕政権以降に「作られた」という印象が強い。
それが日本でもっとも強く語られたのは、1980年の光州事態の時だったと思う。光州での弾圧に慶尚道出身の軍人が多く導入されたなど、暴力的な弾圧の影には地域対立があったかのように語られた。米津氏はこれを「全斗煥軍事クーデターに反対する民衆の抵抗を、全羅道という地域に押さえ込み、矮小化するために、あたかもそれが三国時代から続いている対立のあらわれであるかのように粉飾した権力側のデマゴギー」としているが、私もそう思う。

今回の選挙では、与党セヌリ党忠清道、江原道で躍進した。逆にいえば、野党が強さを示せたのは、ソウルと全羅道ということになる。全羅道慶尚道が等価で対立しているというのは、あまりにもうがった見方だと思う。

選挙結果の分析については、おいおい専門家などからまとまった評価も出てくると思うが、今はこれぐらいで。私にも実際のところではわからない。ただ、地域対立、地域対立という人々が意外に多いので「それではないよ」と、ちょっと書いておこうと思った。