映画『マイウェイ』、カン・チェギュ監督、配役を反対にしたらよかったかもね。

カン・チェギュ監督の新作映画『マイウェイ』(カン・チェギュ監督)が、韓国ではまったく不振だったことに関して、東京新聞のコラム(アジア通信)に書いたことへの補足。

先ごろ、日本でも公開された映画『マイウェイ』は、1928年から1944年という第2次世界大戦の激戦期を背景に、ノモンハン事件やノルマンディー上陸作戦まで描く意欲作。韓国映画史上最高の製作費、ハリウッドばりの戦闘シーン、240日間のおよぶ大陸横断ロケ等々、鳴り物入りで封切られた映画だった。
http://myway-movie.com/

1000万人超と予想された観客動員もはるかに及ばず(現在200万人ほど?)、関係者を悩ませている。対日関係でのバッシングやネット上での嫌がらせが原因というも声もあるが、そんな周辺のことが問題で-はないようだ。

映画は「ノルマンディー上陸作戦にドイツ軍側で参加して東洋人がいた」という史実をもとにしている。果たして、それは誰だったのか? カン監督が設定したのは、植民地時代の京城(現在のソウル)で出会った朝鮮人と日本人のマラソン選手だった。
それにしても、チャン・ドンゴンとオダギリ・ジョーほど、マラソン選手に不似合いな役者はいないのではないか。二人のマラソン・シーンには思わず失笑、しかし映画の中心は二人が軍服を着てからなので、それは大きな問題ではない。では、興行不振の原因はどこに?
 
ネット上のレヴューなどを見ると、リアリズムの欠如、ストーリーの不自然さなどが指摘される。確かに、暴動を起こした人間をすぐさま前線に送り、銃を持たせるなどあり得ない。(銃口がどちらを向くかわからない)。飢えと寒さに苦しむロシアの収容場やノルマンディーでのマラソン練習シーンも悲しい。
でも、韓国で受けなかったのは、なんといってもカタルシスの欠如だろう。これだけの予算、規模、さらに「国民俳優チャン・ドンゴン」まで動員した映画なのに、韓国の人々が期待する種類の感動がない。

それとお金の使いすぎ。「過去最高の予算」「ハリウッドばりの規模」に興奮する若者は、もう今の韓国にいないだろう。大きいことはいいことだ、アメリカや日本に追いつくだけで快感というのは過去の時代。オキュペイド・ウォール街の時代の若者は、国家の繁栄よりも公平な分配を望む。

それに、暇があったら映画ばかり見ている韓国の若者は目が高い。大きなフィクションを面白くするのは、細やかなリアリズムであることを知っている。そこが粗雑な映画は、単なるトンデモになってしまう。

もっとも貧乏くじを引いたのはチャン・ドンゴンだったのではないか。彼が演じる曇りのないヒューマニスト・ジュンシグ役が、意図されたものとはいえ、つまらない。
物語はもっぱらオダギリ演じる日本人・辰雄の側にあり、特に中盤の狂気と荒廃のシーンのオダギリは圧巻、美しすぎる。
チャン・ドンゴンも実はオダギリの方の役をやりたかったとインタビューで言っていた。「でも、日本人役だから…」って。

そこらへんが、限界だな。いいじゃん、やれば。つまり、オダギリ・ジョーが朝鮮人役で、チャン・ドンゴンが日本人役をやればよかったのだ。顔的にも、演技的にも、そっちの方がよかったかもしれない。
カン・チェギュ監督の作品で、もっとも好きなのはシュリだけど、あれはチェ・ミンシグが北朝鮮工作員という配役の意外さがよかった。いっそのこと、『ブラザーフッド』もウォンビンを兄に、チャン・ドンゴンを弟役にすれば、つまらなさが回避されたかもしれない。
 それにしてもオダギリ・ジョーはうまいね。次は誰の映画に出たいかってきかれて、「キム・ギドグ」と答えた。オチとしては最高だ。さらに、チャン・ドンゴンへの友情で、ふんどしでの逆さづりは拒否したというのも。
http://www.cinematoday.jp/page/N0038460

ちなみにオダギリ作品としてみれば、非常に楽しめる映画だ。これだけ彼の魅力が発揮されたのは、『アカルイミライ』以来じゃないかと、オダギリファンの私としては思っている。