金正日死去のニュースがあった日

金正日死去の報があった19日、日本のメディアなどからソウルの様子などを尋ねる電話がかかってきた。「緊張する韓国国民」みたいなコメントがほしかったようだけど、私自身が別件の締切りでパニック。
「そちらの様子は?」
「大変ですよ、締め切りが今日中なんです。え、北? 今、それどころでは…」
一緒にいた韓国人も速報に一瞬驚いただけ。その後はガッガッと仕事を片づけながら、時折「キムジョンウンは整形した」などの四方山話に終始していた。もちろん、ニュースはつけっぱなしだったが。

北朝鮮関連は、いつもそうなのだけど日本のメディアの方が、関心が高い。拉致問題は韓国でもあるのだけど、背景やらなんやら日本とはいろんなことがちがう。例えば、日本の場合は事件そのものが、まさに青天の霹靂だった。右から左までみんな「まさか」と思っていたのに、金正日は認めてしまった。あの時の小泉首相の蒼白な顔は日本人をパニックに陥れ、その時から異常な状態が今まで続いている。でも、韓国人の拉致問題は、決して不測の事態ではなかった。解放直後から、さまざまな「拉致」があった。

韓国人は恐怖に慣らされているのだろうか? 確かに、北のグロテスクな体制も見続けていると慣れるし。極東ブログでは、1994年当時の金日成暗殺説に再びふれながら、あの時の韓国では国民の避難が始まっていたと書いている。 

1994年、北朝鮮国際原子力機関(IAEA)を脱退し、プルトニウム生成可能な黒鉛炉と核開発を継続するとしたことに米国は怒り、北朝鮮空爆が検討された。戦争となっても不思議でもなく、ソウル市民避難も進められた。この危機を回避すべく、当時のビル・クリントン大統領の使者としてジミー・カーター元大統領が金日成氏と交渉し、米朝枠組み合意を結んだ。表面的には危機は脱したが、その合意終結時に金日成氏は急死したのである。


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金日成が亡くなった時も、私はソウルにいた。あの時のことを思い出すと、なぜか市庁前広場の電光掲示板が頭に浮かんでくる。スマートフォンはおろかインターネットもなかったあの頃、人々は市内バスやタクシーのラジオなどで情報に接していた。人々は備蓄や避難の話をしていた。ただ、私自身は独り身だったこともあり、切羽詰まった気持ちはなかった。いざとなったら中国大使館にでも逃げ込めばいいと吹いていた。(そこなら北の攻撃はないだろうし)。でも、韓国人の友人たちの助言に従って、手持ちのウォンをドルに換えたりしていた。それを実家の母が覚えていた。
「あの時の方が緊張したよね」
そうだったっけ? 本当は昨年の延坪島攻撃や日本の原発事故の方がオタオタしたように思う。子持ちになって怖がりになった。でも、今回の金正日のことは、特に何も思わない。緊張もオタオタもしない。だって何も変わらないだろうから。米国と中国が今のままである限り、北はあの状態で放置される。

「韓国の人々ですか? いつもと同じです。テレビはずっと関連ニュースでやっていますが」
そのニュースといっても、関心が高いのは「韓国経済に与える動向」だ。ウォンが下がり、株価が下がる。以下はメモ代わりに使っている私自身のツイッター

「緊張するソウル市民」というコメントを欲しがる日本の一部メディア。体制崩壊や内戦、あるいは統一の声も出てこない。それよりも問題は今日の株価…というのが、新自由主義時代の韓国。
posted at 16:07:07

経済的な心配ばかりが優先する一方で、本質的な指摘をする希少な人もいる。政府が死亡の情報を事前につかめなかった? 北の崩壊可能性が高まっているにもかかわらず、それに対する準備が何もできていなこととか…。
posted at 16:18:40

韓国人は恐怖に慣らされている、のもある。北のグロテスクな体制も見続けていると慣れるし。でも、実は日本人が考えるより韓国の人々は周到だ。着々と外国で市民権を獲得し、資産を外貨や外国不動産に替えたり、いつでも移民できる状態の人々がどれだけ多いか。

posted at 07:01:08

韓国人は落ち着いてる? 彼らが落ち着いたことなど一度もない。

posted at 07:02:06

 夜になって、やっと仕事が一段落し、他の人のツイッターなども眺めてみる。真面目な韓国人は、「政府の情報収集能力」や「北の体制崩壊時への準備」などを問題にしている。また、現政権になって、北のとのパイプが切れたことを嘆く声も。それもあるけど、前政権時代に現代グループがしたぐらいのことを、サムソンはしてもよかったんじゃないかと、私は思う。サムソンは本当に社会奉仕をしない、夢のない企業だ。

20日になって、北の人々の嘆きの様子の映像が入りはじめると、それに対する意見が多くなる。なるほど、と思ったのは、ある韓国人のこのつぶやき。

김정일 사망소식에 통곡하는 북한주민들 보고 뭐라 그러지 마라. 박정희 죽었을 때 남조선 인민도 그 못지 않았다. 억지로 우는 거라고 말하지도 마라. 억지로 우는 거라면 차라리 낫지. 진심에서 우러나오는 울음이니 문제가 되는 거다. https://twitter.com/#!/unheim
金正日の死に慟哭する北の人々。朴正煕の時の韓国もそうだった。無理して泣いているならまだいいさ。心から泣いているのだから、それが問題)

ところで19日の夜に、日本の新聞社の人に聞かれた中で、異色だったのは次の質問。

北朝鮮の人が書いた「北朝鮮文学」というジャンルは存在するのでしょうか?ソ連や中国などでは反体制の作家が存在し、それを日本でも翻訳で読めますが、北朝鮮の場合はそういうのはありますか? 日本では翻訳されていないけれど、韓国でなら読める、というのがあれば教えていただけないでしょうか。
それに対する私の返信。

北朝鮮文学ですが、それがないのが、北朝鮮の悲しい実情です。映画や音楽(ロックなど)もない。亡命者も経済的な理由のみ、文学芸術活動の中から反体制が出てこないのが北朝鮮の特徴です。
それは過去に徹底的に粛清されてしまった。
結果、あの体制は延命することになった。逆にいえば、文学芸術活動があれば、その国は変わり得るわけです。さらに他の国では亡命作家が海外で活動するのですが、北朝鮮の場合は「韓国」があったがために、他の国とは事情が違った。韓国の進歩派は常に北朝鮮擁護派であったために、そういうものを外部から育てられなかったという問題もあります。
私の知っている限りでは、韓国で読める北朝鮮地下文学のようなものはないと思います。もし何かあれば、私もぜひ知りたいです。