併合100年の落とし所

昨日の朝日新聞の記事。

朝鮮王朝の蔵書、宮内庁に存在 韓国併合後に流出か   2010年1月31日3時2分

http://www.asahi.com/culture/update/0130/TKY201001300393.html

【ソウル=牧野愛博】朝鮮王朝が所蔵していた図書や王への講義に使われた書物が、日本の宮内庁に保管されていることがわかった。1910年に日本が韓国を併合後、朝鮮総督府を通じて日本に流出したとみられる。宮内庁にあることがすでに確認されている同王朝の儀典書「朝鮮王室儀軌(ぎき)」と同様、韓国側から返還を求める声が高まることが予想される。
 所在が判明したのは、「帝室図書」と呼ばれる朝鮮王朝の図書のうち、当時の医学や習慣、軍の歴史などを紹介した書籍38種類375冊と、歴代の王が教養を高めるために受けた講義「経筵(けいえん)」に使われた書物。昨年、韓国政府が調査を実施し、宮内庁に保管されていることを確認した。 1392年に建国された朝鮮王朝の初期のものもあり、韓国で国宝に次ぐ重要文化財「宝物」に指定されている医学書と同種類のものや、海外に散逸して全体像がわからない書籍集も含まれている。
 日韓両政府は、国交正常化した1965年に文化財・文化協力協定を結び、韓国に由来がある国有文化財約1300点を日本が引き渡すことで合意。両政府とも「国際法上は決着済み」との立場だ。
 だが、「朝鮮王室儀軌」をめぐっては、韓国の国会が2006年12月に返還要求決議を採択。韓国側が08年4月の日韓外相会談で、国内事情を説明する形で暗に返還を求めた。
 新たに所在が判明した「帝室図書」と「経筵」関連の資料も、流出経路が「朝鮮王室儀軌」と共通している。このため韓国政府内には、日韓併合から100年の節目の今年、3点そろっての返還を実現し、両国の未来志向の友好関係を印象づけたいとの期待感も広がりつつある。

ところで、このニュース、昨日の時点では「朝日」しか報道していなかった。ソウル発なのに「共同」もないし、朝鮮日報中央日報なのどの韓国紙もテレビニュースの報道もない。朝日の単独? と思っていたら、今日になって「共同」が配信。
http://www.47news.jp/CN/201002/CN2010020101000300.html
 一方、朝鮮日報中央日報も今日は記事がでていたが、いずれも朝日の記事を引用という形。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=125779&servcode=A00§code=A10
おそらく韓国文化財庁は「朝日」などの日本のマスコミ向けに記事をリークしたのだろう。韓国マスコミは後手に回ってほしい(騒いでほしくない)という気持ちがあるのかもしれない。

 韓国で「流出文化財」の問題はよく話題になる。日本に限らず、米国、英国、ドイツ、フランスなど欧米諸国にも散らばっている。
(日本 34,369点 米国 18,635点 英国 6,610点 ドイツ5,221点 フランス2,121点。)

 このうち韓国政府はかつてフランスに、「朝鮮王室儀軌」の返還を要求したことがある。が、けんもほろろ。当時、首相だったミッテランは韓国訪問の際にそれを持参で現れたそうだが、あくまでも「見せる」だけ。返す気持ちなど微塵もなかったという。

 こういう問題に関しては、古くから帝国主義時代の「略奪」が取りざたされるが、その責任がきっちり果たされたという例は聞かない。文化財どころが人間の略奪までされていた過去に関して、欧米列強は「紳士協定」を結んでだんまりを決め込んでいる。日本の場合は1965年の日韓条約で、一部は返還。それで「精算済み」ということになっている。流出の経路は、ものによって様々であり、政府関係で取り決めるのは限界がある。「正当な取り引き」(二束三文の買い叩やぼっだくりを含めて)に関しては、法的に返還の義務は生じないし、当時としては見向きもされなかったものを保護した場合もあり、道義的にも微妙だ。

 よって、これに関しては「過去の精算」というよりは、現在の外交問題として考えた方がいい。友好の証として、文化財を「返還=寄贈」する。(まあ、かつてのパンダやコアラの役割だ。)
 特に、今回はいい機会かもしれない。フランスが渡さなかった「朝鮮王室儀軌」を日本はきちんと「お返し」する。しかも 宮内庁の所有なら、個人も団体(大学など)も傷つかないし、何よりも天皇訪韓に代わる「皇室外交」である。