牛肉をめぐる話

一昨日、観劇のために国立劇場へ。私は韓国では車を運転しないので、移動はもっぱらバスか地下鉄。子連れで夜の外出の際はタクシーが多い。

タクシー代は値上がりしたと言っても、日本の5分の1ぐらい。(初乗りが190円、市内バスは一律150円)。4人になると距離によってはバスよりも安いと、小学生も利用している。

タクシー料金が安いのは、韓国政府が料金値上げを抑えているからだ。それは運転手さんの低賃金に支えられている。

あくまでも「公共の交通機関、ぜいたく品ではない」というのが、韓国でのタクシーの位置づけだ。

サラリーマン、主婦、子供まで、あらゆる層が利用する韓国のタクシー。よって、世相を知りたいマスコミなどの取材にもしょっちゅう登場する。それがときに、社会の声として影響力をもつ。

あなどれないなと思う。

一昨日、乗ったタクシーの運転手は、運転中ずっと現大統領を批判し続けた。連日の「米国産牛肉反対」のろうそくデモは、まったく理のあることだと。

「だって、米国は自分たちが食べない、生後30ヶ月以上の牛だけを売りつけるから」

韓国政府は確かに急ぎすぎた。

総選挙での圧倒的な与党勝利を背景に、イ・ミョンパク大統領の訪米直前に、米国産牛肉の全面解禁を宣言してしまった。

少なくとも、「30ヶ月以上の牛」まで急ぐ必要はなかった。骨付きだけにしておけばよかったのに。

私は基本的に集団行動が大嫌いだ(生理的なものなので、困ったものだけど)。

これは思想的な立ち位置は関係ない。

そして粗雑で乱暴な主張はがまんならない。(自分もそうだけど)

とくに韓国のマスコミは粗雑過ぎる。テレビが反政府、大手新聞がイ・ミョンパク支持。双方とも、取材をしないで書く癖はやめたほうがいい。

「米国は韓国に30ヶ月以上の牛の肉だけ売る」と運転手さんは言う。

「30ヶ月以上の牛も」ならまだしも、「牛だけ」ときた。すごい被害者意識だ。

 米国ならやりかねない?

 それはそうだ。米国は想像を絶することをする。

でも、やっぱりあり得んでしょう。韓国はもうそんなに弱い国じゃない。米国から救護物資をもらっていた、朝鮮戦争直後ならともかく。

ところで延々と政府批判を続ける運転手さんに、歴代の大統領で誰が一番よかったか聞いてみた。

ノムヒョンは国をむちゃくちゃにした」「金大中売国奴ノーベル賞ほしさに大統領になった」

「つまり。誰もいないんですか?」

「パク大統領でしょう」

朴正熙、これが庶民の声なのか…。