牛肉をめぐる怪談

ひどい風邪をひいた。いつもなら1日で治るのに。
ひょっとしたら鳥インフルエンザ
という人が、病院に駆け込んでいるらしい(私ではない)

ソウル市内までやってきた鳥インフルエンザは、子供公園のニワトリとか、あまりにも身近なところにいた。学校で飼っている鳥もみんな消毒したり、貴重な種類は疎開させたりしているという。

人間も疎開命令が出るかもしれない。
「在外邦人は、なるべく早く日本に帰るように。」
もし、鶏インフルエンザに感染した「人」が見つかったらだ。日本人会から友人のところにお知らせが来たという。

私がその「人」になったらどうなるのだろう?
強制退去? で、日本にも入国拒否? 
映画『グエムル』のソン・ガンホを思い出した。隔離かあ…。

それにしても大変な話なのに、世間の人々はそれよりもまだ見ぬ牛肉のことで大騒ぎだ。
米国産牛肉をめぐる怪談。
はじまりは2日の、輸入反対集会だった。
300人ぐらいと予想された集会に1万人が集まった。さらに翌日のろうそくデモでは、6割が制服姿の中高生だった。この子達はどこから現れたのか? 

韓国が米国産牛肉の全面解禁を決めたのは先月18日のことだ。その時はほとんど反応がなかったのに、どうして2週間も過ぎてから急に反対運動が盛り上がったのだろう。しかも中高生とは…。
テレビ、芸能人、ネット、そして「怪談」だという。
「米国は自分たちが食べない病気の牛肉を韓国に売りつける」
「韓国人は体質的にBSEにかかりやすい」
「○○が米国産の牛肉を食べて死んだ」

友達と連れ立って、夜、ろうそくデモに出かけるのは楽しいだろう。集団休校して集会をしようという呼びかけも魅力的だ。
ソウルだけでなく他都市でも、中高生が集会の主流になっている。
テレビでも朝から晩までこの話題ばかりだ。

したがって、鶏インフルエンザの話は扱いがとても小さい。

そんなとき釜山西面のケンタッキーチキンのオーナーの話を聞いた。
1年で一番もうかる5月5日の子供の日。今年はまったく売れなかったそうだ。
「鶏インフルエンザのせいで?」
「いいえ、牛肉ですよ。あの日、西面では集会があったんです」
集会があったなら、かえって人が集まったのでは…。ああ、そうか。中高生は反米運動をしているのだった。
ケンタッキーは彼らの標的になっているのだ。