日本社会の分断を読んで韓国社会の分断を考えた

経済学は苦手だが、興味はとてもある。社会の基本なわけだし、学生時代に読んだマルクスの本などは読み物として面白かった。もっとも最近は周囲の「大人たちの会話」である景気や株の話題、私自身が深刻に関係する外国為替の変動という細部ばかりが毛穴をつつく。毛穴をつつくというのは変な言い方だけど、ちょっと気になるというか、まあそんな感じだ。
 そんな中で田中秀臣さんという経済学者の文章はよく読む。ネット上で読める文章が多いし、非常に明晰でわかりやすい。しかし、最大の理由は同じ年だから。同世代や同年代への共感はないのだけど、まるっと同じ年には特別な思いがある。同じ時代風景を見て大きくなった奴(失礼ながら)、親近感という以上に種類はわからないけど愛を感じる。
 
そんな田中先生の「社会の分断を深めない政治を」という論説を読んで、少し思ったことがあるので、ここにメモ。
http://ironna.jp/article/718
 田中先生はまず冒頭に「この十数年、日本社会はふたつの意味で分断されてきたと思う。ひとつは経済的分断、もうひとつは認識上の分断だ」と書いている。「分断」は今や世界的なキーワードで、日本社会に限らず、世界にいろいろなエリアで使われている。私自身も僭越ながら、ウェブ論座に「分裂する韓国社会」という連載を書かせていただいている。
http://webronza.asahi.com/politics/articles/2014120800009.html
 
田中先生があげた2つの分断のうち、経済的分断はすなわち経済的格差のこと。日本の経済格差が深刻な背景には、「1)長期のデフレ不況と2)低所得者層への再分配政策の失敗」が挙げられている。一方、認識上の分断の代表例としては、「対抗的ナショナリズムの勃興と「逃げ切り世代」の価値観の浸透」とある。なるほど「逃げ切り世代」かあ。この言葉はエコノミスト安達誠司さんの言葉らしいけど、うまいですね。私もかねてから、あの世代のあの人達をなんて呼んだらいいのだろうと思ってきたのだけど、これはぴったり。「そうはさせないぞ世代」にとっては、監視の動機が明確になるという意味でありがたい言葉だ。
 
ということで安達さんの書いたものを検索してみたら、これがネット上で読めた。
【第69回】 今後のアベノミクスを考えるために、第一次安倍内閣での成長論争を振り返る!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41393?page=3
後半部分に「逃げ切り世代」のリスク回避姿勢が言及されている。

 田中先生が安達先生が日本経済に関して書かれていることは、それとして非常に勉強になるのですが、私自身は韓国拠点で仕事をしているため、どうしても韓国社会のことを考えてしまう。この日本の現状に対して、韓国はいったいどうなのか。

韓国においても「社会の分断」は、経済的分断と認識上の分断の2つだ。経済格差は日本以上に顕在化されており、人々の不満や怒りも膨らんでいる。格差が目立つのは財閥企業への集中が激しく彼らのふるまいもタカピーなこと。再分配を支えていた親族共同体が崩壊しつつあること。これは重要で、これまでは金持ちの親戚が援助もしてくれたのだが、最近は何もしてくれない。よって再分配がされないばかりが、身近なところで格差への不満や怒りや嫉妬といったネガティブな感情が蓄積される。

一方、後発国だけに日本のような「逃げ切り世代」はできていない。韓国では高齢者自殺率が世界一高く、約半数の高齢者が貧困、それを支えるすぐ下の中高年もしんどい。よって、世代対立といえばもっぱら 高齢者から若者への不満が中心、下から上への不満は少ない。
韓国における「認識の分断」は、日本に比べると一見政治イデオロギー的な要素が強いように見える。特に中国や北朝鮮との関係あたり。南北統一という国家目標は求心力を失っており、むしろ中国と直接つながることで北は不要、自然に統一される的な漠イメージ。
対して「逃げ切り」は親米富裕層の思想。とりあえずお金を貯めこんで、国を離れても生きていかれるようにする。これは富裕層の思想だけど、影響力はある。低所得層でも何かあると「こんな国は捨てて移民する」となる。

ここらへんは日本とずいぶん違うなと思いつつ、こんな記事もあったので、ちょっとメモがわりに。
朝鮮日報の【コラム】「希望喪失症」を患う韓国社会
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/12/27/2014122700801.html?ent_rank_news
・現代経済研究院が昨年行った調査では、国民の75%が「努力しても(社会)階層の上昇は不可能だ」と回答した。
・先のギャラップの調査では、周囲の貧困層が貧しい理由について「置かれた環境のため仕方なく」(65%)という回答が「個人の努力不足」(30%)を大きく上回った。
・韓国保健社会研究院の分析でも、低所得層だった世帯が所得を増やして中産階級以上になる比率(貧困脱出率)は、2000年には49%だったが12年には23%に急落した。
・こうした雰囲気の中、富裕層に対する視線も厳しくなっている。メディアリサーチの今年6月の調査で「(富裕層を)尊敬しない」との回答は82%に達し「尊敬する」は17%にとどまった。社会階層の上昇が困難になっているため、富裕層とそれ以外の人々の確執が深まる可能性が高まっている。
・ピュー研究所の調査では「未来の世代が今よりも豊かに暮らすのは難しい」という悲観的な見方を示した世代は、20代が54%で最も高かった。
・ギャラップの調査では「貧困は努力不足が原因ではなく置かれた環境のためだ」という意見が20代では69%と、50・60代(55%)を大きく上回った。